前田恵理子: 第一線の放射線科医で患者である私の当事者研究

東大病院の放射線科医として循環器画像診断や医療被ばくを専門としています。患者と中高時代以来の超重症喘息と闘いながら受験やキャリア形成、結婚・妊娠・出産を乗り越えてきました。2015年以降肺癌(腺癌→小細胞癌への形質転換)を6回の再発、4回の手術(胸腔鏡3回、開頭1回)、3回の化学療法、2回の放射線治療、肺のラジオ波焼灼、分子標的薬治療により克服しました。脳転移と放射線壊死による半盲、失読、失語も日々の工夫で乗り越えています。医師・当事者としての正確な発信が医学の進歩に帰することを願っています。

肺RFA体験記 part2:アクセスと画像診断



 2021年1月4日に、大阪の都島放射線科クリニックにて、肺内再発3か所に対してCTガイド下経皮的ラジオ波焼灼術(Radiofrequency Ablation;RFA)による治療を受けてきました。part 1では、自由診療である肺RFAを選択した背景について詳しく説明しました。

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part 2では、都島放射線科クリニックへのアクセスや提携ホテルの宿泊事情に続いて、術前画像の詳しい画像所見について説明します。

 

1、RFA当日、東京を出る

 2021年1月4日、仕事始めの月曜日が治療日と決まりました。都島放射線科クリニックでは、RFAの前にまず造影CT(単純CT+動脈相+遅延相)を撮像して、詳細な画像診断を行ったのちに治療を行います。このため、RFAは15時の予約でしたが、造影CTの予約は11時と早め。7時半ごろの新幹線に乗ることにしました。新型コロナの緊急事態宣言が出るかでのタイミングで、東京駅はガラ空き。
 新大阪まで2時間半、新大阪から隣の大阪駅までJR京都線で1駅、大阪環状線に乗り換えて大阪→天満→桜ノ宮で2駅。新大阪からたったの3駅で、あっという間にクリニックのある桜ノ宮駅に着きました。路線図は鉄道オタクの息子との合作(笑)。

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 桜ノ宮駅は東と西に改札があり、どちらもクリニックやホテルに近いのですが、エレベーターは東にしかありません。西口で出ると、階段しかない上に、高架駅から荷物を担いで降りて、もう一度昇らないといけない構造になっていますので、エレベータのある東口で出るようにしましょう。
 RFA治療は入院して受けることもできるのですが、提携先の「大阪リバーサイドホテル」がとてもよいので、ほとんどの患者さんがホテルに泊まるそうです。ホテルは病院から5分程度と近いので、必要があれば先生や看護師さんも来てくれますし、提携先の訪問看護サービスもあるので、とても安心。
 家族は病院にいる必要はないが、何かあったときのために大阪にだれかいたほうが良いとのことで、父と冬休み中の息子を同伴しました。宿泊したのは、和モダンのトリプルのお部屋で、畳にローベッド、そして小学生の勉強を見るのにうってつけの、広い座卓とちょうどいい高さの座椅子クッション。お部屋は大変快適で、コスパ最高でした!予約時に頼める1000円朝食が大変充実しており、家族で愛用しました。昼食・夕食は隣のセブンイレブンもありますし、ウーバーイーツや出前館でもです。ロビーに電子レンジもあり、大阪ならではのグルメを購入して温めるのもあり。夕食時には重宝しました。
 泊数はRFAの部位によりますが、日帰りや1泊で帰る方が多いようですが、私はアスピリン喘息で普通の痛み止めが使えないこと、脳壊死直後で大事を取りたいこと等を考え、余裕を持て2泊することにしました。最終的にpart 3に書いたように3泊したのですけどね。

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大阪リバーサイドホテル概観




 川べりの気持ちの良い道を歩くと、5分ほどで都島放射線科クリニックに着きます。桜ノ宮の名前の通り、この川べりの道は桜並木になっていて、お花見シーズンは素晴らしいそうです。

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 駅からの詳しい行き方は、クリニックのホームページへ

www.osaka-igrt.or.jp

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都島放射線科クリニック概観



2、画像診断

 正確な治療は正確な画像診断から始まります。

 

2-1 病変①:左肺S9結節

 前回CTを撮影したのは、放射線脳壊死で緊急入院となった12月8日。1か月ですのでそんなに変わっているわけがないような気がしますが、左側のくりっとした転移は、直径9mm→11mmに増大していました。直径にして1.22倍ですが、体積は3乗で効いてきますので、体積したらこの1か月でなんと3倍に増大したことになります。癌の増大速度はあなどれません。こういうものを放っておくと、ある時突然増大速度を上げて、小細胞癌への形質転換が顕在化したりするために、今回新年早々慌てて焼きに来たわけです。とりあえず、他に飛んだり浸潤したりしていなくて、一安心。

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2020年12月8日にすでに指摘されていた2か所の再発

2-2 病変②:左肺S9胸膜下結節

 上図の向かって右側に3つ並んだ結節は、胸膜に接する小さな結節。直径6mm程度で、どこに病変があるのかわからないような結節ですが、2020年8月、10月、12月と経過を見ると、確かに8月になかった結節が10月、12月と増大しています。こちらは1月4日のCTではほとんど変化がないように見えましたが、増大傾向から再発は確実ですので、予定通り焼灼します。
 放射線科内で少し意見が分かれたのは、これが肺転移なのか、胸膜播種なのかということです。播種を疑われた根拠は、ごく少量の胸水が少し増加していたことと、胸膜に接するロケーション。まず、胸水はこの6年間増えたり減ったりしていますので、再発のマーカーとしてあまり使えません。ロケーションについては、再発が出現するたびに問題になってきたのですが、2019年に胸膜に接する転移を2回に分けて7カ所手術した際に、いずれも病理では肺実質内に存在しており、肺の膜である胸膜弾性板より内側にあることがわかっています。手術中に胸腔鏡でくまなく見ていただきましたが、播種を疑う結節もほかにありませんでした。
 今回も同じだろうと推察されたので、私の中では播種ではないだろうと踏んでいました。part 3に書きますが、実際に病変は肺内に存在し、播種ではありませんでした。
 CTの空間分解能はせいぜい0.5mmで、マイクロメートルの単位の胸膜の細かい構造を見ることはできません。胸膜に結節が無数にあれば播種だと判断できますが、私のようにごく少数しか結節がない時、形態的にあたかも播種のように見えても播種でなく、肺内転移であるということはままあります。安易に「播種」と診断してしまうと、患者さんから局所治療の選択肢を奪うことになりかねません。「胸膜に並んだ結節のわりに播種にしては数が少ないな」と思ったら、一度立ち止まって「肺内・胸膜転移ではないか?」と疑う慎重さが、放射線科医には求められます。

 

2-3 病変③:心膜に接する左肺S8結節

 白状すると12月まではノーマークだったのですが、当日のCTで保本卓先生に「これも再発ではないか?」と指摘されたのが、左肺S8で心臓に接する28x8mm大の結節です。
 この場所は、2回目の再発に対する2回目の手術で5カ所の再発を切除した場所で、クリップに沿って肺がつぶれている場所です。そのため以前から小さな部分無気肺(細い気管支がクリップでつぶれてその先が虚脱した状態)があり、虚脱した肺の量も多少増減してきた場所なのです。2020年3月27日と2020年8月11日を見ると、3月のほうがむしろ目立ち、8月には目立たなくなっています。もともとこのような変化がある場所は、再発に気が付きにくく要注意です。
 私自身10、12月のCTを見たときは「いつもの術後性変化と無気肺があるな」程度の認識だったのですが、今見直してみると、10月はまだしも、12月は「実が目立つ」あるいは「棍棒状」ように見えます。
 癌のフォローCTは造影剤を使うことが多いですが、東大も含め多くの施設では、造影剤を比較的ゆっくり注入して90-120秒後程度に1回だけ撮影することが多いです(手を抜いているわけではなく、放射線被ばくや急速に造影剤を注射することの安全性との兼ね合いもあります)。都島放射線科クリニックでは、造影剤を勢いよく注射して、動脈相と遅延相という2回のタイミングで撮る撮影法を用いています。再発癌、しかもこれからRFAで治療する(どこをいくつ焼くのか決めなくてはいけない!)に当たり、見落としなく診断したいというこだわりなのでしょう。

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現地で新たな再発が疑われてRFAを行うことにした3か所目の病変

 今回に関しては、2回の撮影をしたことが非常に役立ちました。下段はどちらも2021年1月4日のCTですが、左側が早いタイミング(動脈相:3.5ml/秒で注入後30秒撮像)、右側が遅いタイミング(遅延相:造影剤注入開始後120秒)で撮像したものです。上段に見られた4枚の画像はすべて遅いタイミングでの撮影で、あまり造影効果が認められません。ところが、1月4日の動脈相では、病変に非常に高い造影効果が見えています。遅延相では造影効果は「抜けて」、濃度が低くなっていることがわかります。動脈相で高い造影効果がある、ということは、腫瘤に「血が通っている」、つまり元気よく成長している癌であることが示唆されます。
 この病変は、当初RFAの予定に入っていませんでした。しかし、28x8mm大でなんだかんだ言って一番大きいですし、画像をよく見ると見れば見るほど再発に見えてきます。心臓に沿ってへばりつく再発で、RFAで焼くにはダントツでリスクの高い怖い場所ですが、保本先生にお願いして、即断即決で一緒に焼いて頂くことにしました。
 と、簡単に言っていますが、心臓がバンバン動いている横の本当に怖い場所です。よく、RFAを開始するたった1時間前に、OKして頂けたもんだと、保本先生の実力と胆力に感動してしまいます。