前田恵理子: 第一線の放射線科医で患者である私の当事者研究

東大病院の放射線科医として循環器画像診断や医療被ばくを専門としています。患者と中高時代以来の超重症喘息と闘いながら受験やキャリア形成、結婚・妊娠・出産を乗り越えてきました。2015年以降肺癌(腺癌→小細胞癌への形質転換)を6回の再発、4回の手術(胸腔鏡3回、開頭1回)、3回の化学療法、2回の放射線治療、肺のラジオ波焼灼、分子標的薬治療により克服しました。脳転移と放射線壊死による半盲、失読、失語も日々の工夫で乗り越えています。医師・当事者としての正確な発信が医学の進歩に帰することを願っています。

低線量小児心臓CTの取り組みが日本経済新聞に紹介されました

 私の本業である小児CTの被曝低減の記事が、2020年9月21日(月)の日本経済新聞朝刊にて、7段組みの大きな記事で特集されました。私も、小児心臓CTの被曝適正化に関するインタビューを受けています。

style.nikkei.com

f:id:erikospassion:20200925233402j:plain

本業の取り組みが日本経済新聞に紹介されました。


 2020年4月の医療法施行規則改正に伴い、被曝管理がすべての医療機関に義務化されました。CT検査に被曝はつきものです。被曝を増やせば画質はよくなりますが、発癌リスクが上昇します。かといって減らしすぎて、診断に差し支えるほど画質が低下して
しまえば、検査は被曝損に終わってしまいます。検査目的を考慮し、診断に必要十分な線量管理を行い、患者さんを放射線障害から守ることは、放射線科医や診療放射線技師など放射線医療に関わる者の重要な責務です。その重要性は、成人に比べて5倍ほど放射線感受性が高いと言われる小児では、より高くなります。

 

 小児のCTの中でも、ほんの10年ほど前までカテーテル検査・治療よりも高い放射線量が標準的に使われていたのが、先天性心疾患や川崎病の患者さんに対して行われる小児心臓CTです。昨今の技術の進歩に伴い、ここ10年ほどの間に胸部単純写真程度の
線量で診断に十分な画質を得ることができるという報告が相次ぎ、アジア・欧米ではあっという間に低線量が標準となりました。被曝低減に伴い、かつては欧米では被曝の心配から敬遠されてきた小児心臓CTの適応が、国際的に著しく拡大しています。東大病院でも、いまや世界標準となっている0.3mSv程度の線量で小児心臓CTを撮影
しています。

 被曝は検査・治療のトータルで考えなくてはいけません。心疾患のお子さんは、AYA世代に至るまで繰り返しカテーテル検査・治療を受けますから、積算被曝を考えると、カテに比べて抑えやすいはずのCTの被曝を抑えなくてはいけません。

 

 しかし国内では、昔からCTが普及していた分、ハイエンドな機器への更新が進んでも、昔の標準線量のまま撮影している施設が少なくありません。日本から小児心臓CTに関する英語論文を出している(=国内では先進施設であるはずの)7施設9論文の線量を見ても、実に70倍以上の開きがあるのです。「診断参考レベル」という、各国の標準線量の指標となる統計を比較すると、日本の小児CT被曝は、心臓以外も欧米より高い傾向がありますが、心臓CTの施設間格差は異常、十分管理できているとはいいがたい状況です。

 

 そこで2019年9月に、「日本小児心臓CTアライアンス」(http://pediatric-cardiac-ct.kenkyuukai.jp/special/?id=32157)という団体を発足させました。メンバーは各地域を代表する放射線科医15名、小児が得意な診療放射線技師5名、生物統計学者1名です。
 全国調査や、セミナー開催を通じて、国内の線量の施設間格差
是正を目指しています。


 私は東大に入るまで、患者としてどっぷりと小児医療のお世話にあり、
AYA世代でがんになり、今年の脳転移を含め5回の再発を繰り返してきました
自分が癌になったのは医療放射線のせいではないと思っていますが、
病気で頑張っている子供たちが、原疾患に加えてがんまで背負う
リスクを、放射線科医として低減したいという思いが、私の活動の
原動力の一つとなっています。
 しかし、線量管理・被曝管理というのは放射線医学の中でも
地味な領域で、同業者にも、あまり興味を持ってもらえないのです。
ある程度の外圧も必要だと感じています。

 一人でも多くの方が、小児被曝や施設間格差の問題に興味を持って下さる方が、一人でも増えることを願っております。