前田恵理子: 第一線の放射線科医で患者である私の当事者研究

東大病院の放射線科医として循環器画像診断や医療被ばくを専門としています。患者と中高時代以来の超重症喘息と闘いながら受験やキャリア形成、結婚・妊娠・出産を乗り越えてきました。2015年以降肺癌(腺癌→小細胞癌への形質転換)を6回の再発、4回の手術(胸腔鏡3回、開頭1回)、3回の化学療法、2回の放射線治療、肺のラジオ波焼灼、分子標的薬治療により克服しました。脳転移と放射線壊死による半盲、失読、失語も日々の工夫で乗り越えています。医師・当事者としての正確な発信が医学の進歩に帰することを願っています。

日経新聞に連載を書いています

 すでにご覧になってくださった方も多く、大変多くの反響をいただいていますが、1月、2月に日経新聞月曜朝刊の医療・健康面に「向き合う」という連載を書いています。

 

① 肺がん、4度の再発越えて

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54224230Z00C20A1TCC000/

 

② 社会生活の継続が最善の結果生む

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54512390X10C20A1TCC000/

 

③ 正解ない問題に答える力を

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55017220Q0A130C2TCC000/

4回目は2月17日掲載の予定となっています。

 第3回目の今日は、教育論にちょっと触れました。私は日本とオランダ両方で教育を受けたため(ただし2-30年前の話です)、どちらの良さも弱点もわかります。エッセイと討論と実験を繰り返して、アクティブラーニングを煮詰めたような授業を日々繰り返すオランダ流は、論理的思考力、表現力、行動力、決断力、胆力・・・といった力を養うには非常に優れていました。でも、批判されがちな日本の「大量問題演習」「大量暗記」も、ちゃんとポジティブな面があります。特に理系においては、大量演習によって培われる基礎的な数理技術や数理的センス、大量暗記で身につく広大な範囲の教養が、将来的な素養につながる面もあるのです。
 問題の本質は、両方の学習モードを両立させるのは極めて困難なこと。現在の大学入試改革は、日本式の良いところを残しながら小手先の変更で欧米式を取り入れようとしているように見えます。でも、どちらの学習モードも、まともに習得するには膨大な時間がかかるので、両方をやろうとしてもどっちつかずになってしまいます。しかし今更厳しい点数主義に戻すとしても、他の東アジアの国(中国、韓国、台湾)がその道ではぶれずに突き抜けてしまっていますから、彼らと同じことをやっても勝ち目はありません。
 これこそ、「答えのない問い」だと思います。今までの文科省や塾のカリキュラムがマニュアルだったとすれば、これからはマニュアルがない時代。一人一人、一つ一つの家庭が、それぞれの信念に基づいてよかろうと思う教育を施すしかないのだと思います。その試みは、時に成功し、時には逆効果になるでしょう。でも、ちょっと条件が変われば結果は逆になることもある。正しいと信じた道を、家庭の智慧で進んで、成功も失敗も引き受けていく。そんな時代になっていくのではないでしょうか。