前田恵理子: 第一線の放射線科医で患者である私の当事者研究

東大病院の放射線科医として循環器画像診断や医療被ばくを専門としています。患者と中高時代以来の超重症喘息と闘いながら受験やキャリア形成、結婚・妊娠・出産を乗り越えてきました。2015年以降肺癌(腺癌→小細胞癌への形質転換)を6回の再発、4回の手術(胸腔鏡3回、開頭1回)、3回の化学療法、2回の放射線治療、肺のラジオ波焼灼、分子標的薬治療により克服しました。脳転移と放射線壊死による半盲、失読、失語も日々の工夫で乗り越えています。医師・当事者としての正確な発信が医学の進歩に帰することを願っています。

誰も取り残さない気象情報発信

 本業は医者と大学教員のはずですが、Facebookでの気象情報発信から、為政者の方、自治体の防災担当者、気象ヲタ仲間などいろいろな方と知り合い、それがきっかけで、様々場を与えていただいています。
 2020年10月28日には、参議院議員会館で行われた、第48回未来都市政策研究会にて、2回目の講演を行いました。

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顧問の室井邦彦衆議院議員(維新、国土交通省政務官)も、大阪特別区創設投票直前で大阪入りするたった数時間前というなか、最初から最後まで聞いて下さり、私の提案を直接お話しすることが出来ました。
 10月30日には、荒井聡衆院議員(立憲)の音頭で発足した「気象庁応援団」に加えて頂きました。発足式は荒井先生を筆頭に気象庁長官、10月1日に気象庁に新設された気象防災監(防災のトップ)、気象庁総務課長をはじめとする豪華な顔ぶれで行われ、気象防災発信に関する意見を、直接気象庁「超」幹部の方々に直々にお伝えする機会を頂きました。いろいろ意見交換を行い、今後「応援団」として気象情報発信に関して色々協力する機会を頂けそうです。

 「誰も取り残さない」は、私の生き方のキーワードになっています。子供のころから、授業は勉強が簡単で暇で仕方なかったので、ミニ先生をしていました。知的障害のクラスメートに諦めずに算数を教えたり、避難訓練では、小学校3年生にして先生が前を先導する中「しんがり」として遅れる子たちと手をつないで逃げていました。推薦されて5期連続学級委員についていましたから、それなりに頼りにされていたのだと思います。大学教員となっても、学位のテーマをもらいそびれて困っている高学年の院生たちを何とかするのは、いつしか私の仕事になっていきました(それ自体はもちろん賛否ありますが)
 気象情報に関しても、キーワードは「誰も取り残さない」です。上記のような研究会でも、災害でまず亡くなるのは災害弱者の方であり、災害弱者は得てして情報弱者でもあることから、機会あるごとに私は個の時代に適切な避難行動を促すためのシステムを提案しています。バリアフリーの概念と同じで、災害弱者が避難しやすい環境を作れば、健常者(情報の得方、人付き合いの程度も様々です)にとっても、より安全安心なシステムになります。
 
 現行のシステムでは、発災が予想される2-6時間前には高齢者など避難準備、2時間前を目安に高齢者など避難開始となっています。

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 でも、本当の災害弱者はストレッチャーや車いす移動だったり、人工呼吸器がついていたり、認知症だったりと、移動に相当の準備やスキルが必要など、家族・親族にも簡単には動かせないような患者さんだったりするのです。すでに雨が降っている2-6時間前にそんなこと言われても、避難できない人も多いわけです。
 彼らが避難するためには、

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当日になってからバタバタレベル2とかレベル3を動かすんじゃだめなんですね。

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レベル2-3が72時間前に走り出すような、そういうタイムラインが必要です。家族・親族・地域で移動を担うにしても、介護施設自治体が移動を担うにしても、現状把握、移動プラン、プランの完遂で、どんなに短くても72時間は見ておく必要があるでしょう。
 ここで、避難プランを考え、事業規模(時間、人手、経路、費用etc)を概算する上でも欠かせないのが、気象状況、土地リスク、当事者リスクの正確な現状把握です。そのために必要な下記システムを提案しています。

 必要な準備は3つ。
 
1、気象庁主導で非常事態宣言ができるシステム
 伊勢湾台風、令和元年台風19号西日本豪雨等、広範囲特別警報級の大規模災害が予想されるとき、気象庁が72時間前までに「非常事態宣言」を発令できるシステムが必要です。気象をよく知っている人なら、気象庁が3日前に会見をするということがどれほど異常なのかわかりますが、一般の方は気にしないか、気づいても「気象庁がまたなんか言ってるよ」(失礼!)程度にしかとらえません。いつもの台風、いつもの災害ではない、広範囲特別警報級の災害なのだということを早く周知させる必要があります。
 そのためには、どの程度までの予測失敗が許容できるかの国民的議論も必要です。

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2、ハザードマップと住所の紐づけ。
 今、各自治体にハザードマップはできていますが、何mの浸水で何色、などのフォーマットが統一されていない上に、地図はあっても住所との紐づけがなされていません。しかし、マップがあるということは各地域の浸水深データはあるはずですから統一化は可能なはずです。
 住所と紐づければ、個人単位で、当事者も自治体も住んでいる場所のリスクを把握することが出来るようになります。

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まず、全国のハザードマップを統合し、2階以上浸水エリアはS、床上浸水エリアならA、床下浸水レベルならB、軽度浸水レベルならC、浸水なしならNなどとします。

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住所と災害ランクを紐づけ、住基ネットマイナンバーに登録しておきます。自治体から住民に知らせるだけでなく、転居や土地取引の際にも当然これを周知することになります。これにより、ハザードマップを見ない、どこにあるか・それが何かもわからないような方にも確実に伝えるのです。ハザードマップは、大河川の氾濫、集中豪雨、高潮、津波などいろいろありますが、この際一元的に管理すると良いでしょう。画像は、私が昔住んでいた狛江市のハザードマップです。以前の住居は、多摩川氾濫はAランク、集中豪雨はNランクということがわかりました。

3、医療・介護者による避難自立度の入力システム
 病院に入院すると、病室の入り口やスタッフステーションに、災害時の移動手段がシールで貼ってあります。

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 赤はストレッチャー移動、黄色は車椅子移動、白は独歩です。
 これを、外来患者でもやるのです。

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 ストレッチャ移動や人工呼吸器など最高リスクが紫、車椅子移動や認知症などハイリスクが赤、杖移動でゆっくり等が黄色、といった感じです。
 こうした情報は自治体も要支援者・高齢者名簿として持っていたりしますが、その元ネタは町内会の敬老調査だったりして(私もいままさに地域の班長としてやってます)、調べる人の熱意と人付き合いの程度に左右されますし、自治会には入っていない人は漏れます。しかも、自分の班でもそうなのですが、だいたい入ってほしい災害弱者・情報弱者に限って自治会との付き合いがなかったりするんですよね・・・。
 しかし、自治体・町内会の網から漏れる彼らでも、大抵は病院や介護のお世話になっています。そこで、我々医療職や介護職が、何色に相当するのか(細かい病状は抜きにランクだけ)を入力し、自治体と共有するシステムが必要です。

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 マイナンバーと保険証が紐づいた時点で、保険入力の際に一緒に住基ネットマイナンバーなどに紐づけて、2,3の情報を一元的に管理し、転居にも対応できるようにすると良いと思います。
 
上記のシステムができれば、

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気象庁が非常事態宣言を出す

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2,3のシステムにより、土地リスク+パーソナルリスクの高い地域のトリアージ
現在のレベル3(高齢者・要支援者等避難開始;現行は発災2-6時間前に発令)を72時間前に発令し、災害弱者の避難計画を検討開始
24時間前を目安に災害弱者の避難完了
誰も取り残さない防災、気象災害死者ゼロ作戦の完遂
とつなげることが出来ます。

 予報士の資格もまだ持ってない私ですが、医師・研究者・科学者・筋金入りの患者・患者家族・妻母娘・情報発信者という複眼的な視点を活かし、「死角をつつく役割」をしっかり全うしたいと思います。
  荒井先生、室井先生には大変、大変お世話になっていますが、私はいち科学者であり「宗派」はありませんので、何党の方でも、国の中枢にいらっしゃかたでも、気象関係の方でも、医療介護職の方でも、自治体の方でも、必要とあらば私の提案をご説明に参ります。
 上記システムの理解者が増え、議論が深まり、実効性のある方策として世の中に提案していけたらと思いっています。